2026年4月から7月にかけて、千葉商科大学の特別講義「シリアスゲームデザイン」を全13回で実施しました。6年目となる今年は、過去最多となる定員いっぱいの50名が参加。4〜6名ずつの9チームに分かれ、身近な社会課題をテーマに、アナログゲームの企画・制作に取り組みました。
遊びの楽しさを持ちながら、社会課題への関心や学び、気づきを生み出すことを目指すゲーム。本授業では、そうしたゲームをつくるプロセスそのものを学びの機会と捉えて実施しています。今年も、課題の調査から試作品の制作、外部の方による体験とフィードバック、改善、最終発表までを一つのプロジェクトとして進めました。
企画から最終発表までの全13回
前半では、取り上げる社会課題を調べ、「誰に、何を伝えたいのか」を明確にする企画に取り組みました。後半では、その狙いをゲームのルールやコンポーネントに落とし込み、実際に軽く遊べる試作品へと具体化しました。
第1回|4月17日 オリエンテーション
シリアスゲームの考え方と制作の流れの紹介。既存ゲームの体験と、楽しさと学びを結びつける開発事例の共有。
第2回|4月24日 課題の設定
チームの編成と、「大富豪」のルール変更を通じたゲームづくり体験。関心のある社会課題の絞り込みと調査の開始。
第3回|5月8日 テーマの設定
各自の調査内容の共有と、課題の背景・構造の掘り下げ。ゲームのテーマと、体験者に期待する意識・行動の変化の整理。
第4回|5月15日 体験の設定
ゲームの舞台、プレイヤーの役割、ゲーム内で起こる出来事の検討。伝えたいことにつながる体験と、取り入れたい面白さの設計。
第5回|5月22日 企画発表
外部ゲストへの企画発表と質疑応答。対話を踏まえた、取り入れたいアイデアや追加で調べる事項の整理。
第6回|5月29日 システムの設計
勝利条件、行動への報酬、ジレンマ、偶然性、制約などの学習。ゲームの具体的なルールと必要な道具の検討。
第7回|6月5日 プロトタイプ作成①
カードやボードの制作を通じたルールの具体化。点数や数値が現実の何を表すのかにも注目した試作品づくり。
第8回|6月12日 プロトタイプ作成②
実際に遊べる状態に向けた試作品の整備と、チーム内での試遊・改善。初めて遊ぶ人に向けたルール説明の練習。
第9回|6月19日 テストプレイ
外部ゲストらによる試作品の体験。質疑応答やコメントを通じた、ゲームの魅力と改善点の確認。
第10回|6月26日 ゲームの改善
テストプレイの記録を踏まえた、ルールや道具、テーマの伝え方の見直し。プレイ動画の撮影と発表資料の作成への着手。
第11回|7月3日 発表準備
スライドやプレイ動画の準備。ゲームの概要、制作上の工夫、テストプレイ後の改善点を伝えるための発表内容の整理。
第12回|7月10日 最終発表①
3ブロックに分かれた9チームの発表と、ゲストによる講評。各ブロックから、全体発表に進む優秀チームの選出。
第13回|7月17日 最終発表②
選出された3チームによる全体発表と、ゲスト・学生による投票。各チームによる、実現できたことや残った課題の振り返り。
ゲームをつくるプロセスから学ぶ
社会課題を調べて体験として表現する
ゲームの企画では、テーマに関する知識を集め、その中から自分たちなりの着眼点を見つけることを重視しました。「誰に何を伝えたいか」を定めたうえで、プレイヤーがどのような立場に置かれ、何を選び、その結果として何が起こるのかを考えます。
例えば、同じ食品ロスを扱ったチームでも、食品会社の利益と環境への影響に着目した作品と、日々の食材の管理や使い切りに着目した作品が生まれました。社会課題のどこを切り取り、どのような体験にするかという判断に、各チームの考えが表れています。
外部の方に届けるプロジェクトを経験する
授業の目標は、制作の狙いを実際に体験できるプロトタイプ(試作品)をつくることです。学生は、アイデアをカードやボードにし、チーム内で試し、初めて遊ぶ人に説明して体験してもらうところまで取り組みました。
頭の中では成り立つと思っていたルールも、実際に動かすと分かりにくさや進行の難しさが見えてきます。そこで、外部の方々に向けたテストプレイでの反応を確かめながら、説明や仕組みを修正します。さらに最終発表では、スライドとプレイ動画を作成し、ゲームの特徴と制作過程を他者に伝えることにも取り組みました。
多様なフィードバックを受けて改善する
今年は、アナログゲームの開発・普及に携わる方々、まちづくりやIT企業の代表、市民活動関係者など、計12名のゲストに関わっていただきました。企画発表、テストプレイ、2回の最終発表という複数の段階で、異なる立場から意見を受ける機会を設けました。
質問にうまく答えることよりも、まだ考えられていなかった点を受け止め、制作に生かすことを大事にし、テーマについて学びがあるか、狙いを実現できる仕組みになっているか、ゲームとして面白いかの3点を評価の観点としました。
最終発表では、具体的な改善の経緯も報告されました。「SNS人生ゲーム」は、出来事を他人事として受け止めてしまうのではないかという指摘から、プレイヤーがクイズに答えるマスを追加。「モグモグ妖精集め」は、食材を見分けやすく色分けし、料理をつくれずに手番が過ぎてしまう状況への対策として、アレンジメニューカードを最初に配る仕組みを取り入れました。
チームでの取り組みを振り返る
授業はレクチャーとグループワークを組み合わせて進め、各回のリフレクションシートで学びを振り返る構成としました。最終回には、ゲームの自己評価を持ち寄り、実現できたこと、実現できなかったこと、そのために必要だった工夫をチームで話し合いました。個人レポートやメンバーの相互評価も設け、調査、話し合い、アイデア、制作への関わりを振り返る機会としました。












9チームが制作したゲーム
学生たちは、結婚や将来の暮らし、SNS、食品ロス、物価高騰、クマとの共存、選挙などをテーマに、次の9作品を制作しました。
1班 あなたにとっての結婚とは?
早婚・晩婚・非婚という異なる人生を、職業や年代ごとの出来事を通じて体験するゲーム。勝敗を設けず、最後にそれぞれが歩んだ人生について話し合い、結婚や幸せに対する考え方の違いに触れることを目指す。
2班 SNS人生ゲーム
SNSユーザーとなり、イベントマスを進みながら「フォロワー」「メンタル」「充実度」のポイントを集めるゲーム。炎上や誹謗中傷、個人情報の流出なども起こる仕組みを通じて、情報発信の責任やSNSとの付き合い方を考える。
3班 FOOD PANIC
食品会社の社長として、需要を読みながら食品を仕入れ、販売して利益を競うゲーム。売れ残りは食品ロスとなり、環境汚染が一定を超えると全員が敗北するルールで、利益の追求と環境への配慮のジレンマを体験する。
4班 ブツアゲ↑↑
一人暮らしの学生となり、物価の変動に対応しながら半年間の生活を維持するゲーム。アルバイトやイベントカードを使い、お金・ストレス・エネルギーを管理する体験を通じて、物価高騰の背景や暮らしへの影響を考えるきっかけをつくる。
5班 となりのくま
秋田県のとある村を舞台に、クマの出没や環境の変化にカードで対応し、村を守るゲーム。人間の行動と環境との関係を扱い、プレイヤー自身が対策を考える「アイデアカード」も取り入れて、クマとの共存の難しさを考える。
6班 モグモグ妖精集め
食材の消費期限を管理しながら料理をつくり、食べ物の妖精を仲間にするカードゲーム。使い切れずに捨てた食材は減点となる仕組みや、余った食材を生かすアレンジメニューを通じて、食品ロスを減らす行動を体験する。
7班 ライフューチャー
少子化をテーマに、社会人になってからの人生を、結婚前後の出来事や進路の選択を通じてたどるゲーム。全員が結婚する設定のもとで、終了後に自分の歩んだ人生を話し合い、結婚・出産や将来について考えるきっかけをつくることを目指す。
8班 ミライへの一票
架空の国の農民や冒険者となり、候補者の情報を集め、会議を経て次の王を選ぶ選挙ゲーム。役割によって異なる目標を持つ仕組みを通じて、立場による考え方の違いや、情報収集と一票の意味を考える。
9班 配信者ゲーム
インフルエンサーとなり、動画の形式や行動を選びながらフォロワー数を競うゲーム。コラボやバズ、炎上、謝罪動画などをカードで表現し、SNSで注目を集める楽しさと情報発信に伴うリスクを扱う。
シリアスゲーム制作の難しさと学び
最終発表や授業終了後のアンケートでは、多くの学生が、ゲームとしての楽しさと、社会課題についての学びを両立させる難しさに触れていました。各グループは、外部ゲストからの問いかけや指摘を受け止めながら、ルールや伝え方を見直し、最後まで制作に取り組みました。
自分たちの狙いを形にし、他者の反応を手がかりに、伝えたいことが届くゲームへと磨いていく。その過程に、シリアスゲーム制作の学びがあります。13回の授業は、こうした試行錯誤を通じて、社会課題への理解を深め、チームで制作を進める経験を積む機会となりました。
企画への助言から試作品の体験、最終発表への講評まで、ご協力いただいたゲストの皆さまに感謝申し上げます。



